生命保険会社の経営指標 - 成績表 -
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はじめに ― 生命保険会社の決算書は普通の会社と違う
生命保険会社のディスクロージャー(情報開示)には、一般企業や損害保険会社とは異なる独自の経営指標が数多く掲載されています。「基礎利益」「保有契約高」「EV(エンベディッド・バリュー)」など、初めて見る方には聞き慣れない用語も多いかもしれません。これは、生命保険が数十年にわたる超長期契約を扱い、責任準備金を積み立てながら保険金の支払いに備えるという特徴や「死差益・費差益・利差益」という三利源を収益の柱としているためです。
今回は、生命保険会社の代表的な経営指標を「規模」「収益性・効率性」「支払い能力・企業価値」の3つの視点から紹介します。
1.規模を示す指標 ― 「どのくらい事業を行っているか」
◇ 保険料等収入(収入保険料) ― 生命保険会社の「売上高」
契約者から受け取った保険料のです。生命保険会社の事業規模を表す代表的な指標で、損害保険会社の「正味収入保険料」に近い位置付けです。
一時払い保険の販売状況によって大きく増減することがあるため、単年度だけでなく複数年の推移を見ることが大切です。
ラーメン屋でいえば、お客さんから受け取った売上全体にあたります。
◇ 新契約高 ― 「今年どれだけ新しい契約を獲得したか」
その年度に新たに契約した生命保険の保険金額の合計です。
会社の営業力や成長性を示す指標として利用されます。
ラーメン屋でいえば、新しく来店してくれたお客さんがどれだけ増えたかを表すイメージです。
◇ 保有契約高 ― 「現在どれだけの保障を引き受けているか」
現在有効な契約の保険金額の合計です。
生命保険は長期間継続する契約が多いため、保有契約高は会社がどれだけの保障責任を担っているかを示す重要な指標です。また、保有契約が多いほど、将来の保険料収入の安定にもつながります。
ラーメン屋でいえば、長年通ってくれる常連客の数を表すようなイメージです。
◇ 保険金等支払金 ― 「契約者へどれだけ支払ったか」
契約者や受取人へ支払った保険金・給付金・年金などの合計額です。
生命保険会社が保障を提供した結果として、どれだけ保険金等を支払ったかを示します。
ラーメン屋でいえば、お客さんへ提供した料理やサービスの量を表すようなイメージです。
2.収益性・効率性を示す指標 ― 「うまく経営できているか」
◇ 基礎利益 ― 生命保険会社の「本業の利益」
生命保険会社の本業による収益力を示す代表的な指標です。
株式売却益など一時的な損益を除き、本来の保険事業でどれだけ利益を生み出したかを表します。
損害保険会社では「コンバインド・レシオ」が本業の収益性を見る代表的な指標ですが、コンバインド・レシオが費用と収入の割合(比率)で示されるのに対し、生命保険会社の基礎利益は利益額で示される点が異なります。
基礎利益は、死差益・費差益・利差益という三利源が主な構成要素となっています。
ラーメン屋でいえば、本業でラーメンを販売して得た利益を表します。
◇ 危険差損益(死差益・死差損)
予定死亡率と実際の死亡率との差から生じる損益です。
実際の死亡者数が予定より少なければ死差益、多ければ死差損となります。
ラーメン屋でいえば、予想していた食材ロスが実際には少なく済んだか、多く発生したかのようなイメージです。
◇ 費差損益(費差益・費差損)
予定していた事業費と実際の事業費との差から生じる損益です。
予定より費用を抑えられれば費差益、上回れば費差損となります。
ラーメン屋でいえば、人件費や光熱費を予定より節約できたかどうかを表すイメージです。
◇ 利差損益(利差益・利差損)
予定利率と実際の資産運用利回りとの差から生じる損益です。
運用実績が予定利率を上回れば利差益、下回れば利差損となります。低金利が続くと「逆ざや」と呼ばれる利差損が生じることがあります。
ラーメン屋でいえば、余った資金を運用して得た利益が、想定どおりだったかどうかを表すイメージです。
3.支払い能力・企業価値を示す指標 ― 「将来も安心して保険金を支払えるか」
◇ ソルベンシー・マージン比率 ― 「異常事態でも払い続けられるか」
通常では予測できない大きなリスクに対して、どれだけ保険金等を支払う余力があるかを示す指標です。
生命保険会社では、大規模災害だけでなく、金利変動や死亡率の変化など超長期契約特有のリスクも考慮されています。
金融庁では200%を下回ると早期是正措置の対象となるため、高いほど財務の健全性が高いと考えられます。
ラーメン屋でいえば、お店が思わぬトラブルに見舞われても営業を続けられるだけの貯えがあるかを示すイメージです。
◇ 実質純資産 ― 「会社の本当の体力」
資産と負債を時価ベースで評価した純資産です。
帳簿上の数字だけでは分からない、会社の実際の財務状況に近い姿を表します。
◇ 危険準備金 ― 「将来のリスクへの備え」
将来の死亡率の変動や予測を超える保険金等の支払いに備えて積み立てられる準備金です。
生命保険会社には積立が義務付けられており、経営の安定性を支える重要な役割を果たしています。
◇ EV(エンベディッド・バリュー) ― 「将来の利益まで含めた会社の価値」
EV(Embedded Value)は、現在の純資産に加え、保有契約から将来得られる利益の現在価値を加えて評価する生命保険会社特有の企業価値指標です。
生命保険は契約期間が長いため、現在の財務状況だけでは会社の価値を十分に表せません。そのため、将来生み出される利益まで含めて企業価値を評価する際に用いられます。
ラーメン屋でいえば、今ある資産だけでなく「これから何年も常連客が通ってくれる価値」まで含めてお店の価値を評価するようなイメージです。
まとめ
カテゴリー | 指標 | 一言でいうと |
規模 | 保険料等収入(収入保険料) | 生命保険版の売上高 |
規模 | 新契約高 | 今年獲得した新しい契約 |
規模 | 保有契約高 | 現在の保障規模 |
規模 | 保険金等支払金 | 契約者への支払総額 |
収益性 | 基礎利益 | 生命保険会社の本業利益 |
収益性 | 危険差損益(死差益・死差損) | 死亡率の差による損益 |
収益性 | 費差損益(費差益・費差損) | 事業費の差による損益 |
収益性 | 利差損益(利差益・利差損) | 資産運用の差による損益 |
支払い能力・企業価値 | ソルベンシー・マージン比率 | 異常事態への支払余力 |
支払い能力・企業価値 | 実質純資産 | 時価ベースの財務健全性 |
支払い能力・企業価値 | 危険準備金 | 将来リスクへの備え |
支払い能力・企業価値 | EV(エンベディッド・バリュー) | 将来利益まで含めた企業価値 |
生命保険会社のディスクロージャーを見るときは「保険料等収入や保有契約高で会社の規模を見る」「基礎利益で本業の収益力を見る」「ソルベンシー・マージン比率やEVで健全性や企業価値を見る」という3つの視点で整理すると、会社の特徴や経営状態を把握しやすくなります。



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