生命保険の市場構造
日本の生命保険市場は、どれほど大きいのでしょうか。世界の中での位置づけ、商品ごとの内訳、契約が積み上がる仕組み、統計に使われる指標等を眺めると、市場の全体像が見えやすくなります。この記事では5枚の図を手がかりに、市場の全体像を整理します。細かな商品分類や毎年変わる順位を覚えるより、業界統計や生命保険会社の決算資料を読むための「地図」をつくることが目的です。
1. 世界の中の日本市場

日本は米国、中国、英国に次ぐ世界第4位です。Allianzの2024年の推計では、世界の生命保険料の約6~7%を日本が占めています。国ごとの順位は為替や商品構成で動きますが、日本が世界有数の市場であることが分かります。英国が日本より上なのは少し意外かもしれませんが、英国は年金や資産形成に関係する保険の取引が大きく、企業年金が将来の年金支払いを保険会社に移す取引もあります。英国の生命保険料には、死亡保障に加えて、こうした年金分野の動きが反映されます。中国は世界第2位ですが、生命保険料のGDP比は日本より低く、普及の余地があります。高齢化に伴う老後資金や保障への需要を背景に、今後も成長が見込まれます。
日本市場が大きいのは、「日本人が不安症だから」とか言われますが、加入が広く浸透していることは事実です。生命保険文化センターの調査では、生命保険・個人年金保険の世帯加入率は、2人以上世帯で約90%です。(単身世帯では50%を割ります。)右の積み上げ棒グラフは、日本の生命保険会社が各年度に受け取った収入保険料を示しています。2024年度は約36.8兆円です。一時払い商品の売れ行きなどで年間の金額は変動しますが、他の業界と比較しても大きな市場だとは言えます。
2. 市場を構成する商品区分

上記は、商品区分を収入保険料の大きさで整理しています。最も大きいのが個人保険で、死亡や病気などに備える契約のほか、貯蓄性を持つ商品も含みます。次が老後の年金を準備する個人年金保険です。この二つを合わせると、収入保険料の約9割を占めます。
これに対し、団体保険は企業や団体を通じて構成員を保障する契約、団体年金保険は企業年金などを支える契約です。「その他」には、財形保険や受再保険料など、四つの区分に入らないものをまとめています。
個人保険の中も一種類ではなく、終身保険・定期保険・養老保険・変額保険・医療保険・がん保険・こども保険などに分かれます。図の面積は、これらの商品別の保険料シェアを表しているわけではなく、大きな商品区分をつかむためのものです。また、「個人保険=契約者は個人」、「団体保険=保障を受けるのは法人」という対応関係でもありません。たとえば団体保険では、企業が契約者となり、その企業の従業員が保障を受けます。反対に、企業が役員の保障などを目的として個人保険を契約することもあります。商品区分は、契約の仕組みを整理するための名称です。
3.新契約と保有契約の関係

商品を分けたら、次は時間の見方です。「新契約」は一定期間に新たに成立した契約、「保有契約」はある時点で有効に続いている契約を指します。前者はその年の動き、後者は過去から積み上がった契約の基盤です。
図③の関係を、契約件数で単純化すると次のようになります。
年度末の保有契約 ≒ 年度初めの保有契約 + 当年度の新契約 − 当年度の消滅契約
消滅契約には解約、失効・死亡・満期などがあり、当たり前ですが、新しい契約が増えても、それを上回る契約が消滅すれば、年度末の保有契約は減ります。実際の統計では、契約の転換や保障内容の変更なども影響するため、この式は仕組みを理解するための概念図です。似た言葉である「新規契約」と「新契約」にも注意が必要です。生命保険協会の個人保険統計では、「新規契約」は既存契約を転換した後の契約を含み、「新契約」は転換後契約を含みません。同じ年度でも件数が異なるため、資料を読む際は一応確認した方がよいと思います。
4. 4つの市場指標

上記の4つの指標は、市場を異なる角度から測る物差しで、それぞれが何を数え、いつの状態を示すのかを押さえると、意味が読み取りやすくなります。
契約件数は、文字どおり契約の数です。新契約件数なら一定期間に成立した契約、保有契約件数なら基準日時点で続いている契約を数えます。一人で複数の保険に加入できるため、契約件数をそのまま顧客数と考えることはできません。
契約高は、契約上引き受けている保障の金額です。死亡時に支払う保険金など、保障の大きさを見るのに役立ちます。ただし、医療保険の入院・手術給付や、年金のように受け取り方が異なる商品を、契約高だけで単純に比べることはできません。契約件数が伸びても、死亡保障を小さくする契約が増えれば、契約高は減ることがあります。
年換算保険料は、月払い・年払い・一時払いなど、払込方法の違いをならして年額に換算した指標です。新契約の年換算保険料はその期間の販売規模を、保有契約の年換算保険料は既存契約の保険料基盤を見る際に使えます。たとえば保険期間5年、保険料100万円の一時払い契約なら、概念上は年20万円に換算します。実際の収入保険料が毎年20万円ずつ入るという意味ではありません。
収入保険料は、その期間に保険会社が実際に受け取った保険料です。年度ごとの市場規模を金額で示すには便利ですが、一時払い商品が多く売れた年は大きく動きます。個人保険の2024年度の収入保険料では、一時払いが約4割を占めました。
「契約がどれほど広がったか」は件数、「保障がどれほど積み上がったか」は契約高、「保険料の基盤」は年換算保険料、「その年度に受け取った金額」は収入保険料で、何を確認したいかに応じて物差しを選びます。
5. 会社分類で見る市場シェア

最後に、市場をどのような会社が担っているかを見ます。上記は生命保険会社41社を、国内大手4社、かんぽ生命、損保グループ系、外資系、その他国内系、ネット系に一社ずつ分類しています。
日本生命・第一生命・明治安田生命・住友生命という国内大手4社の割合は、全体の4分の1を超えますが、残りを見ると、従来からの中堅生保に加え、損保グループ傘下の生保や、金融グループ傘下で資産形成商品などを扱う生保が大きな部分を占めています。損保市場を「3メガ」で捉えるときのように、少数の国内大手グループだけでこの市場を説明することはできません。
外資系も約3割を占め、無視できない存在です。医療・がん保障、対面での提案、金融機関を通じた販売など、会社によって得意分野は異なります。「その他国内系」には大手生保の子会社も含めているため、図の「国内大手4社」は4社単体の割合であり、グループ全体のシェアを表したものではありません。
一方、この分類で「ネット系」とした3社は、保険料等収入ベースでは1%未満です。デジタルで加入できることへの注目度と、既存契約から受け取る保険料を含む市場全体での規模は、分けて見る必要があります。加入経路については、生命保険文化センターの調査で、直近加入契約の最多チャネルは2人以上世帯・単身世帯ともに生命保険会社の営業職員でした。保障の必要性や商品を説明してもらい、対面で加入する経路は、現在も大きな役割を持っています。ただし、ネット系3社のシェアだけから、生命保険全体のネット経由の新契約割合を求めることはできません。
6. まとめ
日本の生命保険市場を見るには、まず世界の中での規模を押さえ、商品区分で「何を提供している市場か」を分けます。次に新契約と保有契約でその年の動きと積み上がりを区別し、目的に合う指標を選びます。最後に会社分類を重ねれば、どのような会社が市場を担っているかが見えてきます。決算資料で数字を見かけたときは、何の商品を、新契約と保有契約のどちらで、どの指標を使って測った数字かを確かめてみることが大切だと考えます。


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