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MARIN(海上)_外航貨物海上保険

  • 2025年7月9日
  • 読了時間: 6分

日常生活でなじみのある保険ではありませんが、外航貨物海上保険は損害保険の中で最も長い歴史を持つ種目です。私たちが普段使うスマートフォン・食品・衣料品や資源の多くは、海を渡って日本に届いています。その輸送中のリスクを引き受けているのが外航貨物海上保険であり、貿易立国・日本の経済活動を支える縁の下の力持ちとも言える保険です。




1. 外航貨物海上保険とは


外航貨物海上保険とは、国際貿易における貨物の輸送中に生じる損害を補償する保険です。

海外から商品を仕入れる企業を想像してください。工場を出た製品がトラックで港まで運ばれ、コンテナ船に積み込まれ、海を渡り、到着港で降ろされ、また陸路で倉庫へ届きます。この長い旅の間に、嵐・火災・衝突・盗難などさまざまなリスクが存在します。外航貨物海上保険は、この「出発地から目的地までの全行程」を対象に、貨物に生じた損害を補償する保険です。


「海上」という名称がついていますが、海上輸送だけでなく航空輸送・陸上輸送も含む「複合輸送」全体をカバーするのが一般的です。現代の国際物流はほぼすべてが複合輸送で成立しています。


2. 保険金が支払われる主なケース


外航貨物海上保険の補償範囲は、選択する約款条件(後述)によって異なりますが、主に以下のケースが補償対象となります。

事故の種類

具体的な例

沈没・座礁・火災

船が嵐で沈没・座礁した、船内で火災が発生した

衝突・転覆

船同士が衝突した、コンテナ車が横転した

荒天による損傷

台風・高波によって貨物が水濡れ・破損した

荷役中の事故

積み下ろし作業中に貨物を落として破損した

盗難

輸送中・保管中に貨物が盗まれた

共同海損

船を救うために貨物を投棄した際の損失(積荷全員で費用を分担)


3. 保険金が支払われない主なケース


以下のケースは、原則として補償対象外となります。

免責事由

内容

固有の瑕疵

貨物自体が元々持っていた欠陥・腐敗・自然消耗

荷造りの不備

梱包・パッキングが不十分だったことによる損傷

遅延損害

輸送の遅延によって生じた損害(品質劣化・機会損失など)

故意・重大な過失

被保険者の故意または重大な過失による損害

戦争・ストライキ

戦争・内乱・テロ・ストライキによる損害(別途特約で補償可能)

核・放射線

核燃料・放射性物質による損害

戦争リスク・ストライキリスクは標準約款では免責ですが、別途「戦争危険担保特約」「ストライキ危険担保特約」を付加することで補償を拡大できます。紛争地域を経由する輸送では、これらの特約の検討が欠かせません。


4. 世界共通の約款:協会貨物約款(ICC)


外航貨物海上保険では、イギリスの「協会貨物約款(Institute Cargo Clauses:ICC)」が世界共通の約款として使用されています。

国際取引は、異なる国・言語・商慣習を持つ当事者の間で行われます。補償範囲の解釈が国ごとに異なれば、「損害が出たのに保険金が払われない」「どちらの国の法律に従うのか」といったトラブルが生じます。これを防ぐために、ロンドンの保険業界が作成したICCが国際標準として広く採用されています。


ICCには補償範囲の異なる3種類があります。

約款

補償の範囲

特徴

ICC(A)

最も広い (オールリスク)

免責事由に該当しない限りすべての損害を補償

ICC(B)

中程度

火災・爆発・沈没・座礁・荒天など列挙された危険のみ補償

ICC(C)

最も狭い

沈没・座礁・衝突・火災など主要な大事故のみ補償

一般的な貨物では補償範囲の広いICC(A)が選ばれますが、鉄・木材・バラ積み貨物などは性質上ICC(B)やICC(C)が採用されるケースもあります。


5. 保険の手配者:INCOTERMSとの関係


輸入者と輸出者のどちらが保険を手配するかは、「INCOTERMS(インコタームズ)」と呼ばれる国際規則で定められています。INCOTERMSとは、国際商業会議所(ICC)が定めた貿易取引条件の国際標準規則です。売買契約の中でどの条件を使うかによって、輸送コスト・リスクの移転時点・保険手配の責任者が変わります。


保険の観点で特に重要なのは以下の3つです。

取引条件

保険手配の義務

意味

CIF(運賃・保険料・運賃込み)

輸出者が手配義務あり

売り手が運賃+保険を付けて届ける

CFR(運賃込み)

輸入者が手配

売り手は運賃のみ負担。保険は買い手が手配

FOB(本船渡し)

輸入者が手配

買い手が運賃・保険ともに自分で管理する

CIFとCFRは「輸出者が運賃を負担する」点では同じですが、保険の手配責任が異なります。CFRでは輸入者が自ら保険を手配する必要があるため、輸入者側のリスク管理意識が重要になります。なお、CIF条件では輸出者が保険を手配しますが、その受益者は輸入者になります。貨物の所有権と保険の受益者が別の当事者になるという、他の保険にはない特徴で、保険証券は貨物とともに輸入者に引き渡されます。


6. 保険期間は「航海単位」


外航貨物海上保険の保険期間は、「いつからいつまで」という日付ではなく、「どこからどこまで」という場所で設定されます。通常の保険は「2025年4月1日〜2026年3月31日」のように期間で契約しますが、外航貨物海上保険は「日本の倉庫を出た瞬間から、目的地の倉庫に届くまで」という形で保険期間が設定されます。これを航海単位と呼びます。


ICCの標準的なカバーは「保管場所から保管場所まで(Warehouse to Warehouse)」とされており、出荷元の倉庫から輸送・通関・最終目的地の倉庫への搬入まで、一連の輸送全体を1つの保険でカバーします。


取引量の多い企業では、個々の貨物ごとに契約するのではなく、一定期間内に輸送するすべての貨物をまとめてカバーする「予定保険(オープンカバー)」という形式で契約するのが一般的です。


7. 保険料率の考え方:参考純率は存在しない


外航貨物海上保険には、他の損保種目のような「業界共通の参考純率」が存在しません。

自動車保険や火災保険では、損害保険料率算出機構(GIRO)が算出した参考純率をベースに各社が保険料を設定します。しかし外航貨物海上保険は、貨物の種類・輸送ルート・船舶の状態・荷造りの方法・取引先の信用力など、案件ごとにリスクの内容が大きく異なるため、画一的な料率表を適用することができません。


そのため、保険会社のアンダーライター(引受担当者)が個々の案件のリスクを直接評価し、保険料率を設定する個別のアンダーライティングが基本となっています。


ロイズ(Lloyd's)が外航貨物海上保険の分野で今も大きな存在感を持つのは、個別案件のリスク評価に長けた専門アンダーライターが集まる市場だからです。日本の損保会社もこの種目ではロイズとの共同引受・再保険関係が深い領域です。


まとめ

項目

内容

対象

国際輸送中の貨物(海上・航空・陸上の複合輸送)

保険期間

航海単位(保管場所から保管場所まで)

約款

世界共通のICC(A・B・C)を使用

保険手配者

INCOTERMSの取引条件によって輸出者・輸入者が決まる

保険料率

参考純率なし・個別アンダーライティングで設定

特徴

損害保険の起源・貿易立国日本に欠かせない種目

外航貨物海上保険は、個人としてなじみのある保険ではありません。しかし、日本の輸出入を支えるインフラとして、私たちの生活を陰で支え続けている存在です。損害保険の歴史はここから始まり、現代の国際物流においても不可欠な役割を担い続けています。



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