損害保険会社の主な業務内容
- 俊輔 藤﨑
- 7 分前
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損害保険業界の商流(バリューチェーン)として、「商品開発/マーケティング」、「募集」、「引受」、「契約管理」、「支払」、「顧客・代理店管理」、「資産・リスク管理」、その他一般企業と同様の人事・総務等の「コーポレート・インフラ」に整理し、さらに生命保険会社の組織図と基幹システムの機能分類等を踏まえて、もう一段細分化した業務領域に分けました。各業務領域の中で、損害保険会社がどのような業務を行っているか大まかに記載します。





◆商品開発マーケティング (R&D・MA)
商品企画・開発 (Product Planning)
顧客ニーズを把握し、最適な保険商品や販売戦略を企画・実行する業務です。市場調査や顧客データの分析を通じて、個人・法人のリスク・ライフスタイルに合った保険ニーズを把握し、商品企画や営業支援施策に反映します。また、テレビCM、デジタル広告、SNS等を活用したブランド戦略を展開し、営業部門・代理店と連携して営業活動を支援します。契約後の顧客満足度、継続率・解約率等のデータを分析し、サービス改善や満期更改の施策にもつなげます。顧客視点から商品・販売・ブランドを統合的にマネジメントする役割を担います
マーケティング (Marketing)
顧客リスクに対応する保険商品を企画し、市場や法規制に合わせて開発します。損害保険でカバーする自動車事故・火災・自然災害・賠償責任等のリスクを分析し、個人・企業ニーズに沿った商品を設計し、マーケット調査や競合分析を行い、アクチュアリー(保険数理)と連携して保険料率や補償範囲を決定します。金融庁への商品認可対応や代理店・営業向けの展開資料も整備します。損害保険商品は事故や災害といった突発的なリスクに備える性質が強く、社会環境、法改正、自然災害の傾向等に迅速に対応する柔軟性が求められます
◆募集 (Distribution)
募集(営業) (Sales)
顧客に保険内容を説明し、契約を獲得するための営業・販売活動を意味します。自動車保険・火災保険・傷害保険等の多様な商品から顧客ニーズに合った補償内容を提案し、契約手続きを行います。保険代理店・保険ショップ・銀行窓口・インターネット等の多様な販売チャネルで、それぞれに合わせた営業活動が存在します。保険募集人は保険業法に基づいた商品説明、重要事項説明が義務付けられており、契約獲得だけでなく、顧客リスクに最適な補償を提案し、安心を提供するコンサルティング型営業としての役割が求められます
代理店業務支援 (Agency Support)
保険を販売する営業職員や代理店(=募集人)が法令や社内ルールを守って適正に活動できるよう管理・支援する業務です。募集人の登録・資格管理、資格取得の研修や商品知識や販売スキル向上のための教育、販売実績や募集人品質を踏まえたや資格査定等を行います。また、法令違反や不適切募集を防ぐためのコンプライアンス教育や、指導・処分の対応も含まれます。生命保険は顧客の信頼が基盤となる商品であるため、募集品質の維持・向上に向けたガバナンス機能を担います
リスクコンサルティング (Risk Consulting)
企業や個人が抱えるリスクを分析し、事故や損害を未然に防ぐための対策を提案する業務です。企業向けには工場・オフィス・物流拠点等を訪問し、火災・自然災害・労災・情報漏えい等の事業を取り巻くリスクを診断し、防災・安全対策の改善提案や、最適な保険プランの設計を行います。個人向けにも、自動車事故や住宅災害への備えに関するアドバイスを行います。単に保険を販売するのではなく、事故を防ぐ(リスクを予防する)という観点から顧客の安心と企業の事業継続を支援するコンサルティング機能を担っています
◆引受 (Underwriting)
計上(新契約) (New Business)
顧客が申し込んだ保険契約を正式に成立させるまでの一連の手続きを行う業務です。申込書や告知書の内容を確認し、健康状態・申込経路・職業を含む属性をもと保険を引き受けるかどうかを判断する「査定(アンダーライティング)」を行います。その後、保険料の入金確認や契約内容の登録を経て、保険証券を発行します。新契約業務は、正確性とスピードが特に重要であり、誤りがあると将来の支払いや顧客トラブルにつながるため、厳密な審査体制が求められます
請求・収納 (Billing & Collection)
契約者から保険料を集金し、契約を維持するための管理を行う業務です。保険料の請求書作成・口座振替・クレジット決済等の収納処理、未収保険料の督促や併徴対応等を行います。保険料の入金状況をシステムで管理し、契約が失効しないよう未収管理することも役割です。請求・収納業務は、安定した経営基盤を支えると同時に、契約者に安心して継続利用してもらうための信頼の要でもあり、お金の流れと契約の継続を支える生重要な業務となります
◆契約管理 (Policy Mgmt)
異動 (Policy Maintenance)
成立した保険契約を正確かつ継続的に管理し、契約者の要望に応じて契約内容を維持・変更する業務です。名義・住所・受取人の変更、保険金額の増額・減額、払済や延長保険への変更、転換・復活や解約等の手続きを行います。また、契約者への貸付・返済等の対応も含まれます。保険会社にとって、契約成立後の顧客との関係を守るための重要な業務であり、正確性と迅速な対応が求められる業務です
満期更改 (Renewal)
契約期間が満了する保険契約を更新(更改)し、継続的に補償を提供するための手続きを指します。満期を迎える契約情報をもとに、新しい補償内容・保険料を算出し、代理店や契約者へ更改案内を送付します。必要に応じて、契約内容・補償条件・保険料の見直しを行い、顧客ニーズに合わせた提案を行います。契約者からの承諾後は、更新契約をシステムに登録(計上)し、保険証券を発行します。満期更改は、保険契約の継続率や顧客満足度に直結する重要な業務であり、補償の継続と顧客との関係維持を支える保険事務の要です
◆支払 (Claim)
損害サービス (Claims Services)
事故や災害などが発生した際に、保険会社への受付から保険金の支払いまでの対応を行う業務です。契約者や被害者から事故連絡を受け付け、事故の状況確認、関係者や修理業者への連絡・調整、損害額の確認(査定)を行い、保険金を支払います。また、過失割合の判断や示談交渉のサポート、法的トラブルへの対応等も行います。顧客リスクが顕在化した状況を支える保険会社の社会的使命を体現する役割を担います
◆顧客・代理店管理 (Customer & Agency Mgmt)
顧客サービス (Customer Services)
契約者や見込み顧客からの照会・要求に対応し、保険利用を支援する業務です。契約変更(異動)や満期更新の手続き、事故発生時の対応方法、保険料支払い等に関する問い合わせに電話・メール・チャット等で対応します。また、各種手続きの案内、書類の郵送、Webサービスの利用サポートも行い、必要に応じて担当部門への取次も行います。顧客と会社をつなぐ重要な接点であり、迅速で丁寧な対応が顧客満足度と信頼向上につながります
顧客情報管理 (Customer Relationship Management)
契約者や被保険者の個人情報を正確・安全に管理し、業務で適切に活用できるようにする業務です。顧客属性(氏名/住所/生年月日等)・契約内容・過去の事故情報・コンタクト履歴・苦情内容等のデータをシステム上で一元管理し、更新や訂正を行います。また、個人情報保護法や社内規程に基づき、アクセス権限の管理やデータの暗号化、漏えい防止対策を行います。顧客対応やマーケティング、契約管理・支払等の損害保険会社の業務の基盤となる機能を担っています
代理店管理 (Agency Management)
代理店が法令や社内規程を遵守し、適正に保険募集を行うよう監督・管理する業務です。代理店の登録、募集人管理、手数料の支払い管理、販売実績や苦情状況のモニタリングを行います。また、コンプライアンス違反や不適切募集を防ぐための定期的な点検・指導、代理店評価・査定等も含まれます。保険販売の健全な取引関係を維持し、顧客保護を徹底するために欠かせない販売の質を守るための統制機能を担っています
◆資産・リスク管理 (Investment Risk Mgmt)
共同保険 (Co-Insurance)
大口契約や高額なリスクを複数の保険会社で分担して引き受ける業務です。保険金額が非常に大きい法人契約や団体保険等、1社で引き受けるとリスクが集中してしまう場合に、複数の保険会社が一定割合ずつ引き受けます。これにより、各社はリスクを分散しつつ、安定した経営を維持することができます。共同保険業務では、代表となる幹事会社が契約管理や保険金支払い等の事務を取りまとめ、他の参加会社と保険料・保険金を精算します。リスクの分散と安定的な保険引受を実現するための協調的な仕組みです
再保険 (Re-Insurance)
自社が引き受けた保険契約の一部を他の保険会社(再保険会社)に移転して、リスクを分散・軽減する業務です。例えば、大規模災害や高額な賠償事故等、一社では支払い負担が大きくなるリスクに備えて、再保険会社と契約を結び、一定割合のリスクと保険料を分担します。 再保険には、手続きの分類により「任意再保険」・「特約再保険」、責任分担の分類により「比例再保険」・「非比例再保険」の種類があります。この仕組みによって、予期せぬ大口損害への耐性を高め、保険会社自身のリスクを予防し、財務健全性を支えます
資産運用・管理 (Asset Management)
契約者から預かった保険料を安全かつ効率的に運用し、将来の保険金支払いに備える業務です。国債・社債・株式・不動産・投資信託等に分散投資を行い、安定した収益を確保します。同時に、金利変動や為替変動、信用リスク等を管理し、資産と負債のバランスを最適化する「ALM(資産負債総合管理)」を実施します。また、運用結果を分析し、経営戦略や商品設計にも反映します。生命保険会社の収益性と財務の健全性を支える中核機能であり、将来の契約者への保険金や配当金等の約束を守るための資金管理という役割を担っています
◆コーポレート/インフラ (Corporate Infrastructure)
情報システム (Information System)
業務全体を支えるシステムやITインフラを企画・開発・運用する業務です。引受・請求/収納・契約管理・損害サービス等の業務を遂行する基幹システムの開発を行い、保守・運用を行います。代理店業務支援システムや顧客Webサービス・モバイルアプリの開発等、利便性向上に資するデジタルサービス開発も行う一方で、個人情報等のセキュリティ対策や災害時の可用性確保も対応します。近年では、AI・RPA・クラウド等を活用した業務効率化やデジタル化も推進し、保険事業の競争力確保に向けた中核的な役割を担っています
法務・コンプライアンス (Legal Compliance Audit)
保険事業が法令や規制を遵守し、公正・適正に運営されるよう管理・支援する業務です。保険業法や個人情報保護法、金融庁ガイドライン等の法令を踏まえた契約書・広告・商品約款のリーガルチェックを行い、トラブルや訴訟への対応も担当します。コンプラ面では、代理店や社員に対する法令遵守教育、募集ルールの監査・点検、内部通報制度の運用などを通じて不祥事を未然に防止し、金融庁等の監督当局への報告対応も行います。社会的責任と顧客の信頼を守るための法令遵守を徹底し、経営を支えるガバナンス機能を担います
人事 (Human Resources)
営業担当や損害サービス担当等の多様な職種における採用・評価・人材育成・労務管理を行います。全国規模で展開する組織のため、大量採用・広域配置・転勤管理をはじめ、営業現場のモチベーション維持や顧客対応スキル向上を目的とした研修体系の整備を行います。保険会社社員に求められる資格取得支援や法令順守に向けたコンプラ教育に加えて、アジャスターやアクチュアリー等の専門職の育成も担当し、それぞれの長期的なキャリア形成を支援します。広域災害時には、迅速な要員配置や支援体制の構築も人事部門の役割となります
総務 (General Affairs)
一般的な庶務・施設管理に加えて、金融機関としての社会的責任や広域に展開する保険事業を支える管理機能を有します。全国に多数の支社・営業所を展開しているため、オフィス・設備・社有車等の管理を行い、災害発生時には事業継続計画(BCP)を策定・運用して復旧体制を整えます。また、契約書・印章・機微情報等の個人情報や法的効力を伴う資料を厳格に管理します。株主総会や取締役会等の法定会議の運営支援、監督当局への報告準備、社会貢献活動の推進等、社内外の信頼を高める多くの業務を担います
経理・財務 (Finance・Treasury)
一般企業の会計処理や資金管理に加え、保険特有の収益構造とリスク特性を踏まえた財務管理を行います。保険料収入や保険金支払いを正確に処理し、発生時点で損害見込額を「未払損害金」として見積計上するなど、将来支出を見込んだ会計処理を行います。また、自然災害や大口事故など不確実性の高いリスクに備え、「異常危険準備金」等の保険業法に基づく引当金を積み立てます。資金繰りや将来投資も踏まえながら、保険金支払い能力を維持するための健全な資本管理を実施します。金融庁への報告やソルベンシー・マージン比率の維持など、規制対応も行い、リスクに備え、経営の安定を支える財務管理を担います



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