自動車保険_契約者と記名被保険者
- 俊輔 藤﨑
- 7月17日
- 読了時間: 9分
更新日:7月17日

自動車保険契約に出てくる登場人物は、主に下記の方々です。
・保険会社(保険者)・・・リスクを引き受けて保険金の支払い義務を負う
・代理店 ・・・保険会社との委託契約により代理人として保険契約を締結する
・保険契約者 ・・・保険会社に契約の申込みをする
・記名被保険者 ・・・主に自動車を使用して、保険証券に記名される
・被保険者 ・・・事故の時に補償の対象となる
・車両所有者 ・・・車の持ち主、通常は車検証上の所有者
・契約者の代理人 ・・・契約者に委任されて契約の手続きをする
まず車があり、その車の所有者がいて、その車を運転する人(々)がいて、保険に加入する人がいて、その保険を引き受ける保険会社がいて、その契約手続きを行う代理店がいる、ということです。
保険契約者とは何か。
保険契約者とは、「保険会社に契約の申込みをする人」のことです。自動車保険の申込書に署名をして、保険契約の手続きをする人のことをいいます。必ずしも自動車を主に使用したり、所有している人とは限りません。保険法(第2条(定義))の定めるところによると、保険契約者は、契約が成立すると保険会社に対して保険料の支払義務を負うことになっています。また、保険契約者は保険会社に対して告知義務(過去の事故歴とか免許証の色なんかを保険会社に伝えること)を負うことになっています。逆に保険契約者は、契約解約権(契約を解約する権利)や保険料返還請求権(解約された契約の返還保険料を受領する権利)などの権利を有します。自動車保険の申し込みをした段階では、「保険契約者」とは言わず、単に契約の「申込人」といいます。自動車保険契約は、個人・企業が「申し込み」の意思表示を行い、保険会社がそれを受け入れる「承諾」の意思表示を行って初めて契約が成立します。このような当事者の合意があって成立する契約を「諾成契約」といいます。損害保険会社も営利企業ですので、事故ばかり起こす人が保険に加入したいと申し込みをしてきても、それを断る権利があります。他の契約者の保険料に良くない影響を与えてしまうからです。
記名被保険者とは何か。
記名被保険者とは、自動車保険において、補償の対象の中心となる人のことです。単に補償される範囲に入る人のことを「被保険者」といいますが、「記名被保険者」は保険証券に記名されることから「記名被保険者」といいます。「保険契約者」が保険契約の申込みをする人であるのに対して、「記名被保険者」は主に自動車を運転する人を契約時に設定します。通常は、「契約者」=「記名被保険者」となるケースが多いですが、別に一緒にする必要はありません。
契約者と記名被保険者が異なる例として、以下のようなケースが挙げられます。
・契約者:父親 ≠ 記名被保険者:息子
(息子が未成年のため、父親が自動車保険を契約した)
・契約者:夫 ≠ 記名被保険者:妻
(夫が車を購入し、保険料も支払うが、買い物などで日常的に使うのは妻である)
記名被保険者は自動車保険において決定的に重要なパーソンとなりますが、これは以下の2点の理由によります。ちなみに「保険契約者」は契約手続きには関わってきますが、自動車保険の補償の中身に関してはあまり重要ではありません。
・補償範囲は記名被保険者を中心に決まる
・保険料は記名被保険者の事故歴、属性で決まる
まず、補償範囲の中心となる説明をしましょう。自動車保険の補償範囲は、記名被保険者を中心に決まります。例えば自動車保険には「運転者本人・配偶者限定特約」があります。これは運転者を記名被保険者本人とその配偶者に限定することで、保険料が割引になる特約です。ここでいう「配偶者」とは、記名被保険者から見た「配偶者」となります。決して契約者ではありません。
「対人賠償保険」の補償範囲は以下のように規定されてます。(一部省略)
・「記名被保険者」
・「記名被保険者の配偶者」
・「記名被保険者本人または配偶者の同居の親族」
・「記名被保険者本人または配偶者の別居の未婚の子」
見て分かる通り、補償される人は全て記名被保険者から見て家族内かどうかで決まります。対物賠償保険や人身障害保険もこれと同じです。記名被保険者を大元に被保険者が決まっていきます。つまり、記名被保険者を誤って設定してしまうと、事故があった時に保険金が支払われない恐れがあるということです。
次に、保険料算出の話です。自動車保険の保険料は、記名被保険者の事故リスクによって決まります。つまり、自動車保険のノンフリート等級は記名被保険者が有します。保険会社が参考にする事故歴は記名被保険者のものであって、契約者ではありません。「免許証の色」「年齢」「性別」「住所」などの保険料を算出する上で関わってくるのも、全て記名被保険者のものです。なぜなら、自動車を主に運転しているのは「記名被保険者」であり、他の誰でもないからです。保険会社はいつも自動車を運転している人の事故リスクを分析し、リスク算定(保険料算出)の基準とする必要があります。
次は「記名被保険者」の選び方について考えていきたいと思います。
下記の2つの問い合わせに対して考えていきたいと思います。
◇問い合わせ1
「旦那さんがブルー免許で、奥さんがゴールド免許のお客様がいて、ご夫婦ともに運転するんだけど、奥さんを記名被保険者に設定してゴールド免許割引を適用させていも大丈夫か?」
家族の中の誰を記名被保険者に設定するかで保険料は変わってきます。前述した通り、保険会社が保険料を算出する上で参考とするのは、記名被保険者の情報だからです。ここで、記名被保険者の定義を考えましょう。
損害保険会社のウェブサイトやリーフレットを見ると、おおよそ以下の2点に集約できます。
1.主に契約している車を運転する人
2.契約している車を正当な権利を有して管理している人
この問い合わせで参考とすべき定義は「1」です。結論から言うと、使用頻度が旦那さんに偏ってなければ、奥さんを記名被保険者にしてゴールド免許割引を適用しても問題ありません。家族の中で使用頻度が同じくらいだったら、保険料が少しでも安い人を記名被保険者に設定するのが得策でしょう。この問い合わせをしてきた代理店さんは、たぶん旦那さんが運転しているときに事故を起こした場合、保険会社から告知義務違反を疑われて保険金が支払われない可能性を恐れているのでしょう。主に車を運転する人を保険会社に告知するのは、確かに契約者の義務であり、これに違反すると保険会社が保険金を支払わない理由になります。ただ、実際のところ保険会社が主に運転するのが誰かを調べたり、告知義務違反を立証するのは困難です。
保険会社が問題とするケースは次のような場合でしょう。
・夫がいつも通勤で車を使用しているが、妻がゴールド免許だから記名被保険者を妻にしている
・祖父しか使用しないが、高齢で保険料が高くなってしまうため、ペーパードライバーの孫娘を記名被保険者にしている
以上のケースはさすがに問題でしょう。あきらかな告知義務違反だからです。
ただ、契約者保護が叫ばれて金融庁が保険会社に対して目を光らせているこの時代に、保険会社が記名被保険者が正しく告知されなかったといって本当に保険金を支払わないかというと、その可能性は極めて少ない気がします。代理店さんの募集実態が調査対象になる気がします。ただ、死亡事故や電車関連の超高額事案だとどうなるか分かりません。
◇問い合わせ2
「実家に父がいて、高齢のため免許証を返納してしまった。車に乗るのは時々実家に帰る3人の息子たちで、使用頻度は分からない。車検証の名義は父のままで、名義変更の予定もない。自動車保険は長年父が契約していて現在20等級(MAXの割引)。記名被保険者も父である。この場合、新しく3人の息子の誰かを記名被保険者にして契約をしなければならないか?」
ここでは、定義「2」が重要となってきます。記名被保険者は主に車を運転している人に限られません。正当な権利を持って契約自動車を管理していれば、記名被保険者になり得ます。正当な権利とは、その車の車検証上の所有者であること、自動車税等の税金を支払っていること、駐車場を自分で借りていること、などが挙げられます。車の所有と管理を実際にしていることの確認が取れて、他の誰かが運転することを認めている、みたいなイメージがあれば大丈夫です。今回のケースだと車の所有者は実家の父であり、車の所有者も父であり、駐車されている場所も実家なので、実家の父を記名被保険者として契約を継続していって問題ないでしょう。
問い合わせ2以外のケースとして、以下のような場合も考えられます。
・自動車事故を起こすと職を失いかねない政治家が、自分名義の車を運転手を雇って運転させている
・足の不自由な方が、自分で運転できないので、自分名義の車をいつも家族か友人に運転してもらってる
ただ、「2」の定義を取り入れてない保険会社もあるのでご注意を。
最後に、記名被保険者の変更について、説明します。
記名被保険者は過去の保険事故歴の指標であるノンフリート等級を持っていて、保険会社がリスク算出の参考とする重要人物なので、変更する際は注意が必要です。記名被保険者の変更それ自体は基本的に自由に出来ますが、問題となるのはそのノンフリート等級の引き継ぎです。
lノンフリート等級の引き継ぎが出来る範囲は以下の通りです。
・記名被保険者の配偶者
・記名被保険者の同居の親族
(法人・個人間の等級継承については別の機会に説明します)
記名被保険者を変更できる範囲は、配偶者もしくは同居の親族間までとなってます。つまり、それ以外の人に記名被保険者を変更した場合、今までコツコツ積み上げてきた自動車保険の割引率が適用出来なくなってしまいます。これは車の使用状況が著しく変わった場合、その契約の持つリスクも変わってしまうので、過去の保険事故歴であるノンフリート等級が意味をなさなくなってしまうためです。保険会社にしてみれば、運転免許を持っている国民1人1人にノンフリート等級を与えて、個人個人のリスクを分析して保険料を算出したいところだと思いますが、1人1台車を持っている訳ではないので、現状は1契約(車1台)に1つの等級という形になってます。
1つ屋根の下でノンフリート等級を引き継ぐのはいいけど、家の外に持ち出すのはできない、とういう訳です。
最後によくある質問をご紹介します。
「一昨年の冬から息子が一人暮らし初めてて、車も持って行ったんだって。自動車保険は契約者と記名被保険者が父親のままになってるんだけど、息子名義で新しく契約するとまた6等級からだから、まず記名被保険者だけ息子に変更をして、ちょっとたったら住所を変更していいか?」
→ダメです、コンプラ違反なので、めてください



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