自動車保険_概要
- 俊輔 藤﨑
- 7月15日
- 読了時間: 7分

“自動車保険”とは何か
自動車の利用に伴って発生し得る「損害」を「補償」する損害保険(商品)のことです。
ここで言う「損害」とは、「被保険者」が自動車を利用している時に発生した経済的損失のことを言います。つまりある人が車を利用しないで事故を起こさなかった場合と比べて、実際にいくらお金を損したのか?ということです。
ここで言う「補償」とは、「被保険者」が自動車を利用することにより被った「損害」に対して、保険会社が代わりに「補い(おぎない)償う(つぐなう)」ことを言います。つまりある人が事故を起こしてしまったために要した費用を保険会社が代わりに「保険金」としてお支払いします、ということです。
「ほしょう」という言葉を漢字に変換するといくつか候補がありますが、自動車保険では、「補償」という漢字を使います。ちなみに生命保険では、「保障」という漢字を使います。損害保険と生命保険の中間にあたる年金保険では、「保証」が使われることもあります。ここでポイントとなるのは、自動車保険ではこの「補償」という漢字を使う性質上、原則として自動車事故により実際に失った金額以上の金額は支払われないということです。車が壊れたらその修理代まで、人がケガしたら治療にかかった費用までが原則になります。この大原則で自動車保険の商品は構成されていきます。この大原則を破ろうとする人々が社会に一定数いるので、損害保険会社の仕事は時に大変になってしまい、そして商品もまた適宜修正されて時には複雑になってしまいます。
自動車保険は、主に自身への補償、相手への補償、補償の対象(ヒト・モノ)により保険種類が分類されます。賠償責任が高額になるケースもあることから、相手への補償金額は無制限で加入することが一般的です。

自動車保険の料金は主にどうやって決まるのか。
野球選手やサッカー選手の年俸は、何百万円から何億円、時には数十万円から十何億円という差があります。スポーツ選手に限らなくても、例えばサラリーマンの年収だって、それこそ外資系投資銀行のやり手社員と中小企業のやり手社員では、雲泥の差があります。たまたま新卒で大手金融機関に入社できた人と、就活で失敗して、中小企業に就職した人とでは、ウン千万円も生涯年収に開きが出ます。親がお金持ちの人とそうでない人、都会に生まれた人と地方に生まれた人、先進国に生まれた人と発展途上国に生まれた人も同じくです。
それに比べれば、自動車保険のノンフリート等級別料率の差異は大したことありません。たかだか割増引率▲63%と+108%との差です。最大で171%ですが、例えば、基本保険料が、10万円だったとしたら、10万円×(1-0.63)=37,000円と、10万円×(1+1.08)=208,000円の差です。その差、年間171,000円です。家賃を月1.5万円抑えて、駅から遠いところに住むとか、飲みに行く回数を、月2回減らせばなんてことないでしょう。というか、自動車保険で割増の保険料が適用されている人は、それ以上に保険金をもらっている可能性が高いので、むしろ得しています。損してるのは、ずっと無事故で掛け捨ての保険料を払い続けている長年20等級の契約者です。
ノンフリート等級は自身の力でかなり左右できます。事故を起こさないで、保険を使わなければいいのです。そうすれば、保険料が抑えられます。また、自分に過失がない自動車事故は、翌年の保険料に影響を与えないか、与えても限定的にするようなスキームになってます。要するに、過失がある事故を起こす人(車)に対しては、高い保険料を要求し、そもそも事故を起こさない人(車)に対しては、安い保険料で商品を提供するという当たり前の制度になっている訳です。年収が高くても、転職してたり、年収にブレがある人に対して、住宅ローンの審査が厳しくなる銀行よりも、よっぽど分かりやすいスキームです。単に、過去の保険事故歴で保険料率が決まります。
もちろん、ドライバー1人に1つのノンフリート等級を与える訳でないので、自分が事故してないのに保険料が高くなってしまうケースもあると思います。(現状、契約単位でしか事故率を保険料に反映できません。)1つ屋根の下で使用する車は、誰かの使用頻度が変わったとこで、結局、事故率はだいたい同じだろうと想定するしかないのが現状です。
もちろん、実態に合ったリスクを考慮して、保険料を算出する余地は十分にあります。例えば、自動車の運転に関するデータが、全て保険会社に通知されたら、さらに精緻にリスクを計算することができます。ある自動車に対しての各運転者の運転割合、使用する時間・距離、急ブレーキと急アクセルの頻度、主に通行する道路等が分かれば、保険会社はそれを細かく析して、保険料を算出することができます。将来的に全ての自動車がITでつながって、客観的な運行データが取得できる日が来るかもしれません。
「等級」という言葉は、あまり日常生活で使用しません。英語でいうと、グレード(Grade)が当てはまります。物の尺度や階級といった意味合いで使用される単語です。「自動車事故率の階級」みたいな感じで、認識してもらえればと思います。次に、「ノンフリート」という言葉ですが、これは、「ノン=否定」と「フリート=艦隊・船団」の組み合わせです。英語で綴ると、「Non」と「Fleet」です。「Fleet」は本来、「艦隊・船団」という意味ですが、ここでは、「集団」という感じで捉えてもらえればと思います。つまり、「集団ではない」という意味です。
自動車保険の契約は、「フリート契約」と「ノンフリート契約」に二分されます。「フリート契約」とは、自動車の保有台数が、10台以上の契約者のことを言います。別の機会に詳しく説明しますが、「フリート契約」は、契約している車全体の修正保険料を分母にして、どのくらい保険会社が保険金を支払ったかという損害率で、次年度の割増引率を決定します。一方で、保有している車が10台未満の契約者は、1台1台の事故件数で、割増引率を算出します。個人で10台以上車を持っている人はあまりいないので、個人の契約は基本的に「ノンフリート契約」、そこそこの法人は「フリート契約」という認識でいいと思います。ここでは、「ノンフリート契約」がいかにして、リスクを算出され、どのように保険料が決まるかに焦点を当てていきたいと思います。
ノンフリート等級は、1等級から20等級まであります。20等級が最も割引率が高く(▲63%)、保険料が安くなります。1等級は保険料が割増になり(+108%)当然保険料も一番高くなります。1年間の保険期間で事故がなければ1等級アップし、事故があればダウンします(事故の内容によっては、1事故につき3等級もしくは1等級ダウンとなります)。最初に自動車保険に加入する時は、6等級から始まります。なぜ6等級から始まるのか、今でもよく分かりませんが、まあそういうもんなんです。1等級から20等級までそれぞれに割増引率が決まっていて、基本保険料に割増引率に応じた係数をかけて、最終適用保険料を算出します。2012年10月に大規模な制度改定が実施され、現在は7等級以上の割引率は、同じ等級であっても、過去何年かに保険事故があったかなかったかで、適用する割引率が異なる制度になりました。「事故有係数」と「無事故係数」のどちらかが、7等級以上の契約者に適用されます。図には、 2025年4月1日時点の等級別割増引率を記載しました。損保業界は、損害保険料率算出機構という機関が算出した「参考純率」という料率に基づいた割増引率を、みんなで使用します。(一部共済は除く)
ちなみに、6等級の割引率は13%となっていますが、6等級は、基本的に「6S等級」と「6F等級」に分かれ、適用する割増引率が異なります。初めて自動車保険に加入する契約に適用するのが「6S等級」で、「S」は【Start】の「S」です。「6F等級」の「F」は、【Flat】の「F」です。7等級も同じように、「S」と「F」で適用する割引率が異なります。上記表に記載されているのは、「6F等級」と「7F等級」の割引率です。
上記表を見て分かる通り、等級が低いほど無事故の時、次年度に適用する割引率の上がり幅が大きいです。11等級から19等級までは、1年間無事故だとしても、数%しか上がりません。19等級と20等級だと、6%も割引率がアップしますが、6%も損害率に差があるとはとても思えません。きっとずっと20等級で保険を使ってない契約者の批判を避けるためではないかと推測されます。ともかくも、自動車保険の契約者は、好む好まないに関わらず、このノンフリート等級に応じた割増引率を適用する訳です。
また、ノンフリート等級別料率は、直近の損害率を踏まえて、料率改定が行われます。なので、ここに記載した料率もそのうち変わります。このノンフリート等級別料率制度は、理不尽なことがあるこの世の中では、比較的理に適ったスキームだと個人的には思います。



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