top of page

生命保険会社のデータ全体像 - 活用に向けた入門ガイド -

  • 2025年8月5日
  • 読了時間: 12分

更新日:5月29日

生命保険会社は、契約から支払いまでの長い商流の中で、膨大かつ多様なデータを蓄積しています。健康・医療・財務・行動履歴など、他の業界では到底集められないような機微なデータが揃っており、データ活用の可能性という意味では、金融業界の中でも特に豊かな領域です。


一方で、「データはあるのに使えていない」という声が業界内で絶えないのも事実です。この記事では、生命保険会社のバリューチェーンに沿ってどのようなデータが蓄積されるかを整理した上で、活用上の課題と今後の活用案を提示します。DXプロジェクト・新規事業・業務改善のアイデア出しの起点としてご活用ください。


生命保険会社が保持しているデータ概要
生命保険会社が保持しているデータ概要

生命保険会社が保持しているデータ概要
生命保険会社が保持しているデータ概要

生命保険会社のバリューチェーンとデータ収集の全体像

生命保険会社のデータは、以下のバリューチェーンに沿って収集・蓄積されます。

フェーズ

収集されるデータ

マーケティング・商品開発(MA・R&D)

営業マーケティングデータ

募集(Distribution)

営業マーケティングデータ・顧客データ

引受(Underwriting)

顧客データ・契約データ

保全(Policy Mgmt)

保全データ

支払(Claim)

支払いデータ

資産・リスク管理(Investment / Risk Mgmt)

コーポレートデータ

各商流で収集されるデータの性質が大きく異なるため、生命保険のデータ活用と言っても、どの商流のどんなデータを使うか、という視点が出発点になります。


1. 営業マーケティングデータ


データ概要

保険に加入する前の「見込み顧客との接点」と「マーケティング活動」で収集されるデータです。

営業職員や代理店を通じて、顧客の属性・健康状態・ライフスタイル等を告知書や申込書から収集します。対面での紙の申込書が長年主流でしたが、近年はタブレット端末での電子申込や、Webからのオンライン申込も普及しており、デジタルデータとしての蓄積が進んでいます。


データ項目

データ分類

主なデータ項目

見込み顧客・リード情報

ターゲティング属性(年齢・家族構成・関心)・スコアリング結果

マーケティング施策

DM・メール配信・セミナー・アンケート・キャンペーン反応・満足度調査

営業担当(募集人)

代理店情報・募集人名・資格・営業成績・契約リスト

営業活動履歴

訪問・電話・提案内容・面談メモ・契約結果・アフターフォロー履歴

販売チャネル

営業職員・代理店・銀行窓販・保険ショップ・Web申込 等

Webサイト・アプリの行動ログ

閲覧ページ・滞在時間・資料請求・保険シミュレーション履歴・CVR 等


データ活用の課題

営業職員の活動データは個人のノートや記憶に依存していることが多く、CRMへの入力が不徹底なケースが少なくありません。デジタルチャネルのログは蓄積されていても、オフラインの営業活動データとの統合ができていないため、「顧客が何に興味を持って加入したか」というジャーニー全体が見えにくい構造になっています。


活用の方向性

  • 営業支援(SFA活用)

    面談メモ・提案内容・契約結果のデータを分析し、成約率の高い営業パターンを特定。新人育成のモデル化に活用

  • マーケティング最適化

    Web行動ログと加入実績を紐付け、どのコンテンツ・チャネルが成約に貢献しているかをCVRベースで分析

  • パーソナライズ提案

    スコアリング結果・ターゲティング属性・Web行動ログをもとに、最適なタイミングで最適な商品を提案するレコメンドエンジンの構築


2. 顧客データ


データ概要

募集・引受フェーズで収集される、顧客個人に関するデータです。生命保険に固有の「健康・医療情報」が含まれる、最も機微性の高いデータ群です。営業職員や代理店を通じて、顧客の属性・健康状態・ライフスタイル等を告知書や申込書から収集します。対面での紙の申込書が長年主流でしたが、近年はタブレット端末での電子申込や、Webからのオンライン申込も普及しており、デジタルデータとしての蓄積が進んでいます。


データ項目

データ分類

主なデータ項目

顧客属性

氏名・住所・性別・生年月日(年齢)・職業・家族構成・連絡先

リスクプロファイル

健康診断結果・既往歴・通院歴・手術歴・身長・体重・告知書の内容

ライフスタイル

喫煙の有無・飲酒量・趣味・運動習慣・収入・資産・ライフステージ

顧客接触履歴

コールセンター対応履歴・苦情・問合せ内容 等


データ活用の課題

健康・医療情報は要配慮個人情報に該当するため、利用目的・アクセス権限・保管場所の管理に厳格な規制対応が必要です。また、告知情報の多くが紙の申込書・告知書として収集されており、非構造化データとして保管されているため分析に活用しにくい状態です。


活用の方向性

  • パーソナライズドプライシング 喫煙・BMI・既往歴などの組み合わせと将来の疾病リスクの相関を学習し、個人リスクに応じた保険料設定へ

  • 健康増進プログラムの提供 健康診断結果・バイタルデータと組み合わせ、顧客の健康状態に応じたパーソナライズされた健康推進プログラムを提供。健康維持の取り組みに連動して保険料を割り引く「インシュアテック型」サービスへ

  • ライフプラン最適化AIサービス 収入・資産・家族構成・ライフステージのデータをもとに、銀行預金・証券口座・保険を加味した総合的なライフプラン提案


3. 契約データ


データ概要

引受査定から契約成立までのフェーズで収集される、保険契約の内容に関するデータです。


データ項目

データ分類

主なデータ項目

加入商品

商品種類(死亡保険・医療保険・介護保険・学資保険・個人年金 等)・特約内容

契約内容

保障内容・保険金額・保険期間・保険料・払込方法・払込期間

契約名義人

契約者・被保険者・保険金受取人・関係性

引受査定情報

告知内容・審査判定・条件付き承認内容(部位不担保・割増 等)


データ活用の課題

商品ごとに契約条件・保険料計算ロジック・保険金支払いルールが大きく異なるため、複数商品にまたがる「顧客の保障全体像」を把握することが難しいです。また、引受査定の結果(条件付き承認・部位不担保など)が後続の保全・支払フェーズで十分に参照されていないケースもあります。


活用の方向性

  • 保障ギャップ分析 契約内容・家族構成・ライフステージを組み合わせ、顧客の「保障の過不足」を可視化。追加提案(クロスセル・アップセル)のタイミングと内容を最適化

  • 引受査定の高度化 過去の契約データと支払実績の相関をAI・機械学習で分析し、リスク評価の精度向上と査定の自動化を実現


4. 保全データ


データ概要

契約成立後から消滅までの「維持・管理」フェーズで収集されるデータです。顧客のライフイベントや生活環境の変化が記録される、顧客理解に最も直結するフェーズです。契約後の住所変更・受取人変更・保障内容の変更等の手続きを通じて、顧客の生活環境の変化(転居・結婚・出産・退職等のライフイベント)を反映したデータが収集されます。これらは契約管理システムに登録・蓄積されます。また、コールセンターへの問合せ内容や応対履歴も、顧客の状況や不満・ニーズを把握する上で重要なデータとなります。


データ項目

データ分類

主なデータ項目

基本情報変更

氏名・住所の変更・支払方法・口座の変更

保障内容変更

保障内容・保険金額の変更・特約の追加削除・契約転換履歴

保険料収納状況

収納履歴・未収状況・猶予・失効状況・口座振替・クレカ決済の結果・契約者貸付・返済金

契約失効・解約

失効・復活・解約の理由・解約返戻金・満期金の支払い履歴


データ活用の課題

保全データは契約管理システムに個別に蓄積されますが、「住所変更=引っ越し」「受取人変更=結婚・離婚」などのライフイベントとして解釈・活用できているケースが少ないです。保険料収納の遅延データも、顧客の経済状況を示すシグナルとして活用されていないことが多いです。


活用の方向性

  • 解約・失効の予測と予防 保険料収納状況・問合せ履歴・保障内容変更履歴を組み合わせて「解約リスクスコア」を算出し、高リスク顧客への早期フォローを実現

  • ライフイベント連動の提案 住所変更・受取人変更などの保全手続きを「ライフイベントの発生」として検知し、最適な商品・サービスをタイムリーに提案。例えば子どもの誕生時に学資保険・育英年金の提案を自動生成

  • 家族構成・年代に最適化されたサービス 就職・結婚・出産・住宅購入・子の入学・定年退職・相続といったライフイベントデータと組み合わせ、保険付きレジャーの提案や高齢者見守りサービスなど、保険の枠を超えた生活サービスへの展開


5. 支払いデータ


データ概要

事故・疾病・死亡などの保険事故が発生し、保険金・給付金を支払うフェーズで収集されるデータです。医療・健康情報の中で最もリッチで精度の高いデータが集まります。保険金・給付金の請求・支払のプロセスでは、診断書・入院証明書・手術証明書等の医療情報が収集されます。これらは支払査定のためのデータとして蓄積されますが、疾病の発生傾向や医療費の推移を分析する上でも重要なデータです。支払履歴は引受査定や商品設計にも活用されます。


データ項目

データ分類

主なデータ項目

請求受付

請求者名・被保険者名・請求日・請求事由(病状・事故状況・満期 等)・請求書類

支払査定

審査内容・判定結果・査定担当者・診断書等の必要書類

支払結果

支払日・支払金額・支払方法・支払口座・支払先

不支払・免責対応

不支払理由・調査結果・異議申立状況 等


データ活用の課題

診断書・手術証明書などの医療文書は紙・PDF形式での提出が主流で、構造化されていないため集計・分析が困難です。また、支払データを引受査定にフィードバックするループが、業務プロセス上の壁から実装が遅れているケースが多いです。


活用の方向性

  • 支払査定の自動化 AI-OCRで診断書・証明書を読み取り、支払要件の自動チェックを実装。定型案件の自動支払いを実現し、査定担当者が複雑な案件に集中できる体制を構築

  • 不正請求の早期検知 過去の不正請求データをもとに不審なパターンをAIに学習させ、高リスク請求を早期にフラグアップ

  • 疾病・医療費トレンドの分析 支払データを病名・年齢・地域・職業などの軸で集計し、商品開発・保険料率の見直しに活用

  • 災害時の即時払い 大規模災害発生時に、自治体・行政の被災者情報(住民データ)と連携することで、請求手続きなしに保険金を即時払いする仕組みの実現


6. コーポレートデータ


データ概要

保険事業の運営を支える管理部門のデータです。直接顧客には見えませんが、経営判断・リスク管理・規制対応の根幹をなすデータ群です。


データ項目

データ分類

主なデータ項目

財務・会計

収支状況・収入保険料・支払保険金・代理店手数料・ソルベンシー・マージン・責任準備金・資産・負債・決算情報

法務・コンプライアンス

規程・法令対応状況・AML(マネロン)記録・苦情・クレーム・処分歴・内部監査・外部監査

人事

従業員の属性・勤務状況・採用・給与・評価・研修履歴・資格

情報システム

システム稼働状況・障害履歴・アクセスログ・セキュリティログ・システムパフォーマンス

リスク管理

リスク量・モニタリング結果・保険リスク(引受・死亡率・解約率 等)・市場・信用・オペレーショナルリスク


データ活用の3つの構造的課題

どのフェーズのデータも共通して、以下の3つの課題を抱えています。


① データの分散

契約管理・収納・支払・代理店管理など、フェーズごとに独立した基幹システムが存在し、データが横断的に連携されていません。「同一顧客のデータを一気通貫で見る」ことが技術的・組織的に難しい状態です。


② 非構造化データの多さ

診断書・告知書・手書き書類・コールセンターの通話録音など、構造化されていないデータが大量に存在します。これらはデータとしては「ある」のに、分析・活用できていません。


③ 厳格な法令規制

健康・医療情報は要配慮個人情報であり、個人情報保護法・保険業法による利用目的の制限・アクセス管理・第三者提供の制約が厳しく、「技術的にはできるが、法令上できない」というボトルネックが多発します。


外部データ活用ケース(案)
外部データ活用ケース(案)

今後のデータ活用案(外部データとの組み合わせ)

自社データだけでなく、外部データと組み合わせることで活用の幅が大きく広がります。

組み合わせるデータ

提供できるサービス(案)

ライフイベント(就職・結婚・出産・住宅購入・子の入学・定年退職・相続)

家族構成・年代に最適化されたサービス(保険付きレジャーの提案・高齢者見守り)

収入・資産(可処分所得・生活費・保険料)

ライフプラン最適化AIサービス(銀行預金・証券口座・保険を加味した提案)

健康状態(健康診断・血糖値・脂質・腸内細菌・脳波・メンタル・バイタル)

パーソナライズされた健康推進プログラム(健康状態に応じた保険料割引)

生活スタイル(食事習慣・運動習慣・フィットネス・平均歩数・睡眠状況)

企業向けウェルビーイング促進サービス(従業員の健康リスクを診断・改善)

被災者情報(大規模災害発生時の自治体・行政の住民データ)

災害時に保険金を即時払い(行政・自治体経由での即時支払い)


まとめ(アイデア出しに使えるデータマップ)

フェーズ

主なデータ

活用の切り口

マーケティング・募集

行動ログ・営業活動履歴・スコアリング

成約率向上・パーソナライズ提案

引受

健康情報・告知情報・リスクプロファイル

査定高度化・パーソナライズドプライシング

保全

ライフイベント・収納状況・解約理由

解約予防・次の提案タイミングの最適化

支払

医療情報・支払実績・不正請求履歴

査定自動化・不正検知・即時払い

資産・リスク管理

財務・保険リスク・市場リスク

経営管理・規制対応・ERM

生命保険会社のデータは、非常にポテンシャルはあるが、活用が難しいという状態です。データ活用プロジェクトの成功の鍵は、技術力よりも「どのフェーズのどのデータを、どの業務課題に使うか」という業務理解と仮説設計にあると思います。この記事が、その仮説を立てるための出発点になれば幸いです。


以上、生命保険会社のデータ活用について、解説させていただきました。

損害保険会社が保持しているデータ概要は、こちらをクリック

コメント

5つ星のうち0と評価されています。
まだ評価がありません

評価を追加
bottom of page